暇つぶししかしないブログ

無名バンドマンの考えごととか

小説紹介 #2 模倣犯 / 宮部みゆき

こんにちはササクレです。

 

本日は雨と言われていましたが、一日中良い天気でした。

 

まあ、根本的に予定というものを持たない僕としては何の関係もなく、ただ時間が過ぎていくのを眺めるだけでしたが。

 

リア充ならばこんな時にも、でかければよかった・・・!

と後悔するのかもしれませんが、よくわかりません。

 

人生の夢は京都に大文字焼きを見に行くことです。

 

さて、今日は小説紹介ということで人生的にも影響を受けた本を紹介します。

 

 

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 あらすじを簡単に紹介しましょう。ある日、公園で発見される身元不明の女性の右腕。警察の懸命な捜査をあざ笑うかのように、被害者の遺族へ接触を図る真犯人。そして事件は、思いもよらぬ方向へと転がっていく……といった内容になっております。

 先に断っておきますと、この小説かなり長いです。文庫本だとそれなりの厚さのものが全5巻! ふだんからあまり読書を嗜まない人ならば、まず手に取った時点で諦めてしまうような量ですね。僕も昔は、あまりにも長そうだったので敬遠していました(笑)。

 だがしかし! 一度読み出すと、息をつく暇もないほどの緊迫した雰囲気と、さまざまな登場人物の織りなす群像劇にページをめくる手は止まらず、二日間で読み切ってしまいました。そのおかげで寝不足で職場に向かうことになってしまいましたが、後悔はありません。

 何より注目すべきなのは、登場人物一人一人に対する細かい描写。まるで履歴書が用意されているのではないかと思うような性格付けによって、あたかも実在している人物かのように錯覚してしまいます。なぜ本作の登場人物はこのような魅力を持っているのか、考えてみました。


■優れた感情の描き方

 この小説に登場するキャラクターたちは、未曾有の大犯罪に巻き込まれているせいか、多くのシーンでマイナスの感情に囚われてしまいます。もし自分の肉親が殺害され、真犯人からそれを馬鹿にされるようなことになったら……と考えてみると、確かに我慢できることではないでしょう。模倣犯に出てくる数多くの被害者遺族たちは、あまりにも突然に肉親を失ってしまったショックを抱え、狼狽し、慟哭し、そして悩みます。ときには、「かわりに自分が殺されればよかったのに!」なんていうことを考え、涙することもあります。しかし、どう嘆き悲しんだところで死者はいつまでも死者のままです。本作は、そのような人間が抱く“負の感情”を、残酷なほどリアルに描いています。

 僕たちがふだん生活していても、他者の死を身近に感じることは、ほとんどないように思います。それは、どこかで悲しい事件が起こったとしても、まさか自分の身にそんな災難が降りかかるとは思っていないからです。多くの人はそう思いながら日々を暮しているので、突然自分が大事件に巻き込まれてしまうと、心が上手く働かないのかもしれませんね。普通の生活を送っていると、どうしても鈍感になってしまいがちな他人の心の痛みをこうまで克明に描かれてしまっては、もうこの物語に入り込まざるを得ません。


■人と人との関わり

 さて、そんな被害者の遺族たちですが、この本に登場する人のなかには、それでも他人への思いやりをなくさずに生きていく人もいます。人間は自分が辛い目に遭ったとき、「どうして自分だけがこんな目に……」なんていうことを思ってしまいがちですが、なかは「自分のような思いをする人だけは、二度と出してはいけない」という考えに至る人もいるということです。ネット環境が日を追うごとに充実していき、生身の人間と接する機会がどんどん減っていっている今日の社会ではありますが、そのような人と人との関わりだけは、どうにかしてなくさないで生きていかなくてはいけないなと思います。


劇場型犯罪を目論む犯人

 そのような心優しき人たちを嘲笑うかのように連続殺人を起こす非道な犯人たち。通常のミステリー小説ならば、犯人の人となりはなんとなくおざなりになってしまいがちですが、この小説は犯人に対しても生い立ちから、なぜそのように身勝手な人間になったのかということが克明に描写されています。

 そもそも劇場型犯罪とは、分かりやすいところで例を出すと、かつてのグリコ・森永事件のような“犯人が直接的に警察や被害者に関わるような事件”のことを言います。日本ではあまり例をみない犯罪なので、ほとんどの人はなかなかピンと来ないかもしれません。皆さんが普段テレビで報道されるニュースなんかを見るときも、「犯人からの犯行声明文が送られてきました」なんていう事件を目にすることはあまりないでしょうから。

 しかし、この小説に出てくる犯人はむしろ積極的に警察や被害者に対して接触を図るうえ、生放送のテレビ番組に対しても電話を掛けてきます。もし実際にそんな事件が起きれば、どのような家庭でもそのテレビ番組に釘付けになってしまうのではないのでしょうか? 世間からの注目を浴びたい犯人というものは数多くいるかもしれませんが、現実にはここまでするような殺人犯はめったにいません。けれど、この「模倣犯」に登場する犯人たちは、実際にいてもおかしくないようなリアリティを持って僕たちに語りかけてきます。


■犯罪に対する僕たちの認識

 多くの人たちは“犯罪行為は絶対に犯してはいけない”という社会規範を持って日々を過ごしていると思うのですが、そのような犯罪行為を嬉々として行なう人間もまれに存在します。“社会にはルールがあり、そのルールを破れば多くの人に迷惑が掛かる”ということすら理解しようとしない人間に、怯えながら暮らす人々も少なくありません。

 嬉々として罪を犯すような人間の多くは救いようのない人間たちばかりなのですが、ときには環境によって作られたとしか言いようのない犯罪者も出現します。そのような環境により生まれた犯罪者を目の当たりにしたときに、僕たちはどのような感想を抱くことになるでしょうか?

 生まれ育った環境は確かに可哀想だけれども、犯した罪については申し開きすることができないという人もいらっしゃるでしょうし、環境さえそのようなものでなければ、この犯罪者だってそんな罪は犯さなかったはずだと主張し擁護に回る人たちもいるでしょう。しかし、罪は罪として裁かれなければいけないのです。人を殺した人間は同じように死で贖うべきだという考え方は、第三者にとってはいささか過激であるようにも思えますが、実際に被害者の遺族がそのようなことを言ったとするのならば、その言葉の重みは凄まじいものがあるのではないのでしょうか。


■フィクションのなかでの犯罪

 少し話が横道にそれてしまいましたが、このような小説のなかではさまざまな犯罪があり、多くの登場人物たちが犯罪に翻弄されていきます。しかし、この「模倣犯」は、犯罪に立ち向かう人たちという存在が大きなテーマになっているように思えます。 一概に立ち向かうと言っても、警察の人間として事件解決のために奔走する人、被害者遺族として犯人を許し切れない人、加害者家族の苦しみなど、その現実はさまざまです。

 ミステリー小説といえば当然のように罪が存在しますが、「模倣犯」のように、犯罪に真っ向から立ち向かう人々のリアルを鮮明に描いている小説は、一度でも読むと価値観を変えるほどの力を持っていると思います。ただの架空のお話だから、と一笑に付すことは簡単かもしれませんが、そこに描かれている人間ドラマを読み解いていくことで「模倣犯」の価値は何倍にも高まります。


■現代の若者たちの人間関係

 ここ数年の間、スマートフォンの普及によりかつてからは考えられないほど、他人と簡単に連絡を取り合うことが可能になってきました。けれどもそのかわりに、言葉の持つ本来の重さとでも言うべきものがどんどん軽くなってきているのではないでしょうか。

 たとえば、まったく同じ言葉だったとしても面と向かって言われるのとメールやSNSなどの文章で言われるのでは、発信者にとっては同じ意図だったとしても、受け手にとっては解釈が異なってしまうのではないかと思うのです。この「模倣犯」は20年ほど前に刊行された小説ということもあり、メールすらもまだ一般的に使用されていない時代の物語です。なので、ほとんどの登場人物たちは顔を付き合わせて話し合うことになります。そのような会話のなかにこそ、言葉本来の意味が宿るように思えてなりません。この本を読んで感銘を受けた人ならば、きっと直に人と向き合って言葉を交わすことの大切さを実感できるようになるのではないかと思います。


■罪と人間

 このとても壮大な話を読み終えて思うことは、壮大な犯罪計画のなれの果ての愚かさというよりは、犯罪と向き合って生きてきた人間たちの偉大さを強く感じます。人間は生きていれば、誰しも意識しないうちに罪を犯してしまうことがあります。多くの人たちは自分が罪を犯したという自覚もなく死んでいってしまうのかもしれませんが、法律で裁かれることだけが罪ではありません。身体を傷つけるのは罪で、心を殺すのは罪ではないなんてことがあってはならないのです。

 多くの人たちは、意識しないまでも何かしらの罪を背負って生きています。ときとして、まったく思いもよらない犯罪に自分が巻き込まれてしまう可能性もあるでしょう。そのとき、巻き込まれた自分の不幸を呪うかもしれませんし、なぜ自分がこんな目に遭わなければいけないのかと嘆くかもしれません。それでも人間は、いつしか事件に巻き込まれたことで負ったダメージから、自ら立ち直らなければいけないのです。この作品に出てくる数多くの登場人物たちのように。

 

思い入れの強さ故に長文になってしまいましたが、本当にオススメです。

 

ただハマりすぎると長時間が経過してしまうので時間に余裕がある時に読んでくださいね!

 

After Rain / Aimer