暇つぶししかしないブログ

無名バンドマンの考えごととか

歩けよスミレ。アジサイ咲くまで。#1

 

スミレは異端だった。

 

しかし、一口に異端とは言っても別に容姿が変わっている、性格がねじ曲がったりしているわけでもなかった。

 

むしろ見た目的には街を我が物顔で歩いている女の子たちと何ら遜色ないし、話をしたとしても印象に残ることは殆どないと言ってもいいくらいだった。

 

けれども、会話を続けていくうちに多くの人たちが何となく居心地の悪い気分を抱いてしまうのも事実で、現にそのせいでまともな人付き合いをできたことは皆無だった。

 

なんで自分だけが他の人たちと同じように、週末になったら友達同士で出かけたり、当然のように恋人を作ったりできないんだろう?

 

単純に人間的な魅力がないのかな?なんていうことで随分思い悩んでしまったこともあったのだけれども、状況に慣れすぎてしまっているうちにどうでもよくなってしまった。

 

別に一人で生きていくことなんて、ネットの発達した時代では難しことでもないし、むしろ大昔に生まれなかっただけでも僥倖かもしれない。と思い込むようにもしていた。

 

長い付き合いができないということが、どういうことになるのか若いスミレには分かっていなかっただけかもしれない。

 

それでも人生を続けていくからには歩き続けなくてはいけない。見慣れた花が咲くまでは、立ち止まることなんて許されなかったのだ。

 

 

 

 

人通りなんて全くないとも言える午前4時の海辺で、男が二人何かを話している。

 

一人はひどく背が高くて痩せ形、もう一人はというと背丈は普通なのだがかなり横幅が広い体型をしているので、とても中肉中背とは言えない。

 

感傷的とも言えなくもない雰囲気を出しているけれども、怯えるように辺りの様子をうかがっているせいで悪だくみをしているようにも思えてしまう。

 

現に巡回中の警察官も声を掛けようか迷ってしまっていたくらいだが、明け方には妙な若者たちが話し込んでいるのもよくあることなので、元々職業意識が薄い若い巡査は見なかったことにして通り過ぎてしまっていた。

 

数日後、そのことをひどく気にしてしまうことになるのだとしても、現時点では何の得にもならなさそうなことに首を突っ込むよりかは、早く仕事を終えて家に帰って、酒を飲んで眠ることを優先させてしまった。

 

「おれたちはあの子には随分と悪いことをしてしまったかもしれない。」

 

「いまさらなんだよ?どれだけ後悔したとしても僕たちは与えられた仕事をするしかなかったんだし、あの時点ではベストな選択をしたって言い切れるぜ。」

 

「確かに、それはそうかもしれない。でもいくら国から指定を受けているのだとしても騙して連れていくなんていう卑怯な真似はするべきじゃなかった。もっとフェアであることが求められていたはずだ。」

 

ふとっちょの方がイライラとした様子でタバコに火を付けた。

 

「フェアだって!?おいおい、理想を抱えるのはいいことかもしれないけど、身の危険を把握するのだって相当大事なことになるんだぜ。うっかり虜になってしまった時点で僕たちの立場は相当危ういものになっていたんだから。」

 

「分かってるよ・・・。でもあの子は言われていたイメージとは全く違っていた。普通に明日は仕事に行きたくないと言い、普通に人間関係に思い悩んで、普通に・・・。」

 

「はいはい、後悔しているのはもう充分に分かったけど、いつまでもこうしてるわけにはいかないぜ。依頼主は生きたままのあの子を連れてこいって言ってるんだし、時間を掛けすぎると妙な疑いを持たれちまう。」

 

「それはそうかもしれないけど、やっぱり気が進まないよ。願わくばこれからの幸せを祈るだけでさよならしたい気分なんだ。」

 

ふとっちょの方はあきれたようにため息をついた。

 

「何がお前をそこまで肩入れさせているのかはさっぱり分からんが、そんなことできるわけないだろう?とにかくこの話は終わりだ。そろそろ行こう、夜が明けちまうよ。」

 

強引に会話を打ち切って静かに立ち去ろうとしているけれども、やせっぽっちの方はまだぶつぶつ行っている。

 

「ああ!こんなことならば最後のお願いだけは聞いてあげるべきだった。おれたちはきっと何かを間違ってしまったんだ。」

 

どれだけ自らの行動を悔やんだとしても時が戻ることはない。

 

彼らが手中にしたかわいそうな女の子にしたって、いつかは誰からも忘れ去られてしまう運命なのだ。

 

けれども、きっと忘れない人もいる。そのことが少しばかりの救いになるかもしれない。

 

#2 に続く。