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暇つぶししかしないブログ

無名バンドマンの考えごととか

歩けよスミレ。アジサイ咲くまで。#2

sasakure-writer.hatenablog.com

↑前回はこちら

 

異端の少女は今日も歩き続ける。

 

とはいっても何かしらの目的があるというわけでもないし、面白いことはないかなあ・・・。といったような年頃の好奇心に突き動かされているだけにすぎない。

 

素敵な男性と出会えたりすることはないかしら?なんていうことを考えていることは否定できないのだが、何しろ目線が合ったとしても慌てたように顔を背けられるのだからやるせない。

 

自分がたくさんの人たちから避けられているのは流石に理解できている。

 

もっと小さい頃は何故このような理不尽の目に遭ってしまうのかということが本当に分からなくて祖母に尋ねてみたりしたものだが、毎回のように

 

「決まっていることだから仕方ないでしょ?」

 

とおきまりの台詞を言われてしまうことになるのだから、いつしか理由を知ることも諦めてしまった。

 

けれども、心の底から現在の状況に納得しているということは決してない。

 

あの思い出すのも胸くそ悪い、どこまでも歪みきった女(たしか朝顔とかいう名前だった)だけはスミレの立ち位置については性格に把握しているようだったが、あんな女に頭を下げるくらいならば、もやもやした気持ちを抱えたまま死んでいく方が幾分マシだとも思われた。

 

出自を知るためには、何よりも権力を求めなくてはいけないということは充分に分かっているつもりだ。

 

何しろ異端として認められるためには国からの厳しい審査が必要だという話だったし、両親がその為に支払った金は、おそらく順当に大学を卒業して社会人になったとしても、生涯賃金よりも高いであろうということは想像することができた。

 

しかし、そこまでの代償を払って手に入れた結果が娘が腫れ物扱いされるというのは、どう考えても割に合っていない。

 

ただし、方法が分からないのではどうしようもないし、このままではまともな企業に就職できるかどうかも怪しいものだ。

 

何しろアルバイトの面接を受けにいっただけでも、履歴書を見た瞬間に柔和だった面接官の顔が強張って、追い返されるという経験だって何回もしたことがある。

 

どう考えても生きづらい。行きづらい。逝きづらい。

 

高校を卒業する頃には何かしらの大きな転機が訪れて、これまでの不幸を帳消しにしてくれるかもしれない・・・。なんていう期待をするには現実を知りすぎてしまった。

 

そんなわけで今日も考え事をしながらひたすら散歩している。

 

 

 

 

暗い部屋でアジサイは目を覚ました。

 

突然部屋の電気が一斉に付いたのだからまだまだ寝ていたい気分ではあったのだけれども、これでは怠惰に眠りを貪ることは不可能だということは分かりきっていたので、ぶつぶつと文句を言いながら仕方なく起床することになった。

 

施設の人間達はアジサイの寝起きが最悪だということは充分に理解しているので、いきなり部屋を訪ねてくるような愚かな行為はしない。

 

そういえばこの前直接起こしにきた馬鹿野郎の手首を噛みちぎってやった時は最高だったな・・・。自分が何をされたのか一切分かっていなかったあの間抜け面ときたら!

できることならば両の手を使い物にならなくなるぐらい咀嚼してやりたかったんだけど、やりすぎると流石に処分されてしまう危険性があったし、腹八分で済ませておくのも重要だよね。

 

というようなことを起き抜けの頭で、異常な少女は考えている。

 

悲鳴が足りない!もっと不幸を!できるならば惨劇を!

 

甘美な空想に浸りながら微笑んでいると、リンドウがめんどくさそうな顔をしながらやってきた

 

「おはよう、機嫌は良さそうだね。よく眠れたかい?」

 

「おー、どっちんおはよ。お陰様で肥だめの中で一晩中過ごしたみたいに、晴れ晴れとした気分だぜい」

 

自分の名前を殊更気に入っているこいつを嫌がる名前でわざと呼ぶと、端正な顔が崩れていくのを目撃することができて凄く楽しい。

 

「あのね、アジサイ。何度も言っているようだけれども僕のことはちゃんとした名前で呼んでくれないか?そういう呼ばれ方するとイライラするんだよ」

 

「そうだっけ?ごめんごめん失念してた。以後気を付けるから勘弁してくれたまえ。んで、何の用?新しい指令でも持ってきたのか?」

 

「絶対わざとだよな・・・。なんでこう人の気に障るようなことを言うのは抜群に上手いんだよ。もちろん命令が出てきたからこうして足をわざわざ運んでるんだよ。そうでなければ、誰が好きこのんでこんなイカれたアトリエになんか来るもんか!」

 

「そう興奮するなよ。それにこの場所はイカれてなんかない。イカしてはいるかもしれねーけどな」

 

事あるごとに反論することだけは、自分の立場が危うくなることを承知の上でも止めることはできない。我ながらイケてる性格だとは思う。

 

「あー、もう君と話していると本題に全く入れないから雑談はここで終わりだ。単刀直入に言うと異端狩りが始まる。12時間以内に全ての準備を終えて出発すること。いいね?」

 

どうせ今回もまた、ロクでもない金持ちの小間使いだろうと高を括っていたから、これには驚いてしまった。端的に言うと、わたしはもの凄くビックリした。

中学生用が使う薄っぺらな英語の教科書の例文に載ってる日本語訳みたいな表現になってしまって申し訳ないのだけれども、他に感情を表現する言葉がすぐには見つからなかったのだから仕方ない。

 

「おいおい、それマジで言ってんの?大災害が起こってからまだ3年も経ってないんだぜ。いまこのタイミングで捕獲することに何の意味があんだよ?それにあいつは国からの指定が、」

 

「びっくりする気持ちは分かるけど、これって決定事項だから逆らうことはできないよ。今度ばかりは、君も上手く生き延びることはできないかもしれないねえ。まっこと残念だ、アジサイのことは一生忘れないからね?」

 

いつもイラつかせている意趣返しとばかりにニヤけ面でべらべら喋ってくるけれども、私は全く聞いていなかった。心に浮かんだ言葉は[最悪]の二文字だけ。

 

「まあ、とりあえず準備することは色々あるだろうから、ここらで僕はおいとますることにするよ。ボスが君を拾ってきた時には頭がどうかしてしまったのかと心配したんだけど、今回ばかりは英断だったと言わざるを得ないね。君も一度は稀代の殺人鬼と言われた人間ならばせめて世間の役に立ってから死んでいきたまえよ。」

 

一気に言いたことを言ってからリンドウはゆっくりと去っていった。

 

よりにもよって最低で最悪な指令を与えられてしまったけど、腹を括るしかない。

 

どこまでも残酷に残忍に、許容もなく慈悲もなく、笑って攫って黙って堪える。

 

生かされているわたしができるのはそれだけだから。

 

#3に続く