暇つぶししかしないブログ

無名バンドマンの考えごととか

歩けよスミレ。アジサイ咲くまで。#3

sasakure-writer.hatenablog.com

前回はこちら

 

リンドウはひたすら考え続ける。

それなりに整った顔の造作をしているので、女性に困ったことは全くないのだが、さすがに20代も後半になってくると結婚等の問題も出てくることになる。

 

今やっている仕事にしても高収入は確実に毎月手に入るのだけれども、何しろ内容が合法ギリギリという生ぬるいレベルではなく、確実に非合法というのだから将来の保障も全くない。

 

表の顔は、経営コンサルタントになっているアネモネだが、実際にやっているのは、殺人に必要な舞台をプロデュースするという内容なので、危険とは常に隣り合わせだ。

 

しかし、誰かを殺してやりたいという人間の多いことと言ったら、勤続10年になるリンドウから見ても少しばかり異常なことのように思える。どうせならば衝動的に行ってもいいものなのに。

 

まあでも誰も彼もが好き勝手に行動してしまっているようでは、こちとらメシの種がなくなってしまうことになるので、その辺りは一応感謝するべきだと考えた方がいいかもしれない。

 

今のところ会社での地位はチーフディレクターということになっているのだが、実際には演出家と呼ばれることの方が多い。どのようにすれば、警察から怪しまれることなく舞台を整えるかが重要になってくるので気が抜けない仕事だ。

 

少しでも手抜かりがあったとするのならば、すぐにでも矛盾点を洗われてしまうことになるので、自分と警察との愉快なゲームだと思ったのならば、まだおもしろおかしく労働に従事できるかもしれない。

 

見頃市あたりで報道されるような事件ならば、殆どがリンドウの演出によって、構築されてきた作品ということになるので、当然のことながら迷宮入りすることも多いが、最近は流石に罪の意識も芽生えてきた。

 

ビデオゲームの世界なら、電源を切ればそれで全てが無かったことになるのだけれども、現実に血は流され続けることになる。直接犯行には関わっていないのだとしても、間接的には当事者といっても過言ではない。

 

現に彼が緻密なまでに計算し尽くした舞台では、今日もどこかの誰かが怨恨なのか快楽のためなのかは知らないけれども、命を奪っていっていることになっているのだから良心が痛まない方がどうかしている。

 

犯行が発覚した後のことはザクロがいつものようにストーリーを書き上げることになっているが、あいつが罪悪感を覚えることなんていうのは、この先一生訪れることはないんだろうな。と嘆息してしまう。

 

自由気ままに話を作っていって、それでお金が貰えるなんて最高!なんていうことを酒の席で言ってたくらいなのだから、異常さでいえば稀代の殺人鬼であるアジサイと、どっこいどっこいだろう。

 

しかし、大事なのは直接手を下すということは絶対にしていない。というところだ。アネモネの存在が世間に摘発されてしまったら逮捕はされるかもしれないが、裁判になってもそこまで重い罪にはならないはずだ。

 

そろそろ足を洗うことを検討していくのも有りかもしれないな・・・。なんていうことを柄にもなくセンチメンタルになりながら思っていると、右ポケットに振動を感じたので確認するとアネモネからの電話だった。

 

「はい、こちらリンドウ。ご存じだとは思うのですが、今日は非番ということになっているので、急ぎの用件だったら他のやつに電話して貰えませんかね?」

 

「おいおい、開口一番に冷たいじゃないか。世の中のサラリーマンのことを想像してみてくれよ。彼らは土日返上で出勤してお金を稼ぐことに躍起になっているんだぜ。」

 

思ったとおりにアスナロの軽薄な声が聞こえてきたので、思わず舌打ちをしそうになってしまったが、ここで不機嫌にさせてしまうのは絶対にまずい。

 

「生憎こちとらサラリーマン連中と違ってあくせく働く必要なんていうのは全くないのでね。プライベートと仕事は切り離したいと常々思っているんですよ。」

 

「そういう風に生きていくのは社会生活を乗り切る上でも非常に大切なことになるんだけど、何しろ急用なんでね。君だって明日朝一番から落ち込んだ気分になりたくないだろう?」

 

「はいはい、もう諦めたから用件を言って下さい。どうせまたつまらない依頼なんでしょう?さっさと終わらせてしまってたまには誰にも邪魔されることのない休みにしたいのでね。」

 

「君が何を以てつまらないと判断するのかはとても気になるところなんだけど、今回は残念ながら、いつものように舞台をお膳立てするくらいでは済まないんだなこれが!何しろ今回は誘拐から息の根を止めるまで全て我々が行わなくてはいけないんだから。」

 

全てを行う?いつからアネモネは殺し屋稼業にまで手を染めることになったのだろう。確かに上客に対してはアジサイのようなパフォーマーを貸し出すこともあるが、あくまでも特例だ。

 

「聞き間違いだと思うんですけど、全てをって言いましたか?そんなことをしてしまったら必ずアシが付くことになってしまいますし、今まで秘密裏に行ってきたのもおしまいに・・・。」

 

「言いたいことは色々あるのは分かってるけど、これは一大プロジェクトなんだ。何しろようやく、ブラックボックスだった異端に手を付けることができるんだから、四の五の言わないでくれ。」

 

「異端ですって!?彼女に関しては誰も手出しをしてはいけないという指定が国から出されてるんですよ!今までだって同業者が何度も失敗してきたのを我々は目撃してきたじゃないですか!」

 

「電話では詳しいことを言うことができないけど、安全性は確かだからそう怯えることもないだろう。とりあえず拉致にはガーベラ、シナリオはザクロ、パフォーマーアジサイということで手配しよう。」

 

こちらが了承もしていないというのに、人員を選ぶのも既に完了しているんだろうな・・・。とリンドウはため息をついた。

 

「ちなみにその依頼って断ることできます?あんまり気が乗らないんですが。」

 

「あまり面白くもない冗談だな。今度アメリカンジョーク100の本をプレゼントするから是非とも読んでみて欲しいな。それじゃ、詳しいことはまた指示を出すからよろしく。」

 

最後の悪あがきも失敗に終わってしまって、やれやれと首を横に振りながら、最大の禁忌に手を出そうとしている我が組織に所属している自分のことを哀れんでしまいそうだった。

 

よりにもよって異端狩りなんていうことに関わるとは最悪すぎる・・・。暫くは顔を見ることもないだろうと思っていたアジサイに伝令を伝えにいくのも気が重い。

 

依頼を受けてしまった以上は、途中で降りるなんていうことは決して許されないので、何とかして生き延びるしかない。その為には何を犠牲にしても良いという覚悟を抱かなくては。

 

そしてこの仕事を終えたのならば絶対に退職しよう・・・。というありきたりな死亡フラグのようなことを考えながらも、ひとまずは指令を伝えに見頃市郊外に向かうことにした。

 

演出家人生で最大の山場になるということは安易に予想できたけれども、実は意外にも楽な仕事になる可能性もあるさ・・・。とリンドウは考えたが当然のように期待は裏切られることになる。

 

#4に続く